case080 在宅勤務で事業場外みなし労働制の労働時間把握について
在宅勤務で事業場外みなし労働制の労働時間把握について
Q:相談内容
在宅勤務で事業場外みなし労働制は始業就業時間や休憩時間をどの程度把握する必要があるのでしょうか
A:回答
在宅勤務で事業場外みなし労働時間制を採用している場合でも、労働時間の状況の把握を適切に把握することが求められます。(業務日報、PCのログイン、ログアウト情報などにより)
ただし、日々、業務日報等で始業・終業時刻や業務内容、進捗状況等を詳細にわたり上司に報告させるなどしている場合は、「労働時間を算定し難い」という、事業場外みなし労働時間制の前提に当てはまりません。
解説
事業場外労働によるみなし労働時間制
労働基準法に規定されている労働時間制度は、すべて在宅勤務について適用されます。一般的な労働時間制度はもちろん 「フレックスタイム制度」や「事業場外労働によるみなし労働時間制」なども在宅勤務への適用対象となり得ます。
このうち、「事業場外労働によるみなし労働時間制」の適正な運用について、以下に解説します。
在宅勤務者の自宅は、事業場ではありません
自宅は通常「起居寝食など私生活を営む場所」であり、事業場として取り扱われることはありません。在宅勤務者が自宅で仕事をしていることは、事業場の外で仕事をしているということになります。
「自宅」=「労働時間が算定しがたい」ではありません
「事業場外労働によるみなし労働時間制」の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務です。
在宅勤務者が自宅で行う業務については、どんな場合でも「事業場外労働によるみなし労働時間制」を適用できるわけではありません。制度を適用できるか否かを、「在宅勤務ガイドライン」で示されている以下の判断基準に基づいて判断する必要があります。
「事業場外労働によるみなし労働時間制」適用の判断基準
以下のすべての要件を満たす場合、「事業場外労働によるみなし労働時間制」が適用できます。
①その業務が、起居寝食など私生活を営む自宅で行われること
②その業務に用いる情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
③その業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
原則として所定労働時間働いたものとみなされます
ある日の業務について、その一部を事業場内で行い、残りを自宅で行った場合についても、みなし労働時間制の適用があります。
ある日の業務について、①全てを在宅勤務した場合と、②一部は事業場内で勤務し、残りを在宅勤務した場合に分けて解説します。
①全てを在宅勤務した場合
【原則】所定労働時間労働したものとみなす。
【例外】通常その業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合、その業務の遂行に通常必要とされる時間(※)労働したものとみなす。
②一部は事業場内で勤務し、残りを在宅勤務した場合
【原則】事業場内勤務と在宅勤務とを合わせて、所定労働時間労働したものとみなす。
【例外】事業場内勤務分の労働時間と在宅勤務で行った業務に通常必要とされる時間(※)とを足し合わせた時間が所定労働時間を超える場合は、足し合わせた時間労働したものとみなす。
※労使協定を締結したときは、その協定で定める時間を「業務の遂行に通常必要とされる時間」とする。
事業場外労働によってみなすことができるのは労働時間だけです
(1)休憩、休日について(労働基準法第34条、第35条、第40条)
在宅勤務だからといって、みなし労働時間制の適用によって休憩や休日も同時に付与したものとみなすのではなく、心身の疲労の回復のため、実際に休憩や休日を付与しなければなりません。
なお、在宅勤務者の休憩時間帯は、所属事業場の休憩時間帯と合わせる必要があります(一斉休憩の原則)。
(2)深夜業(労働基準法第37条)
在宅勤務者に、深夜勤務を許可して働かせた場合には、深夜割増賃金の支払いが必要となる。
通常勤務では、午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働させた場合に割増賃金の支払いを使用者に義務付けていますが、これは、みなし労働時間制を適用していても同様です。
5.みなし労働時間制なのに、労働時間を把握するとは?
労働時間を把握し、管理する目的を理解しましょう
みなし労働時間制を適用時でも、休憩や休日を付与し、深夜時間帯について、実際の(深夜)労働時間を把握しなければなりません。
在宅勤務者の健康確保のため、また、みなし労働時間を適切に設定するため、「労働時間の状況」の把握に努めなければなりません。
在宅勤務中の業務であっても、労働時間を算定しがたいとはいえないものについては、「実際の労働時間」を把握することが必要です。
労働時間管理のための具体的な取り組みのポイントは次のとおりです。
1.休憩について
労使協定や就業規則などで所定の休憩時間をあらかじめ定め、その時間には休憩をとるよう在宅勤務者に徹底します。
必要に応じて、休憩のあり方を在宅勤務者に指導する必要があります。
2.休日や深夜業について
労使協定や就業規則などで、特別の指示または事前に許可した場合を除き、休日労働および深夜労働に従事してはならない旨を規定し、在宅勤務者に指示徹底することが必要です。つまり、休日労働や深夜労働は、使用者の具体的指揮監督下で行わせることを徹底します。
深夜労働規制をはじめ法規制の要旨や、就業規則などを在宅勤務者に周知徹底させます。
事前許可手続きが形骸化しているような場合などは、業務体制や業務指示の在り方にまで踏み込んで見直しを行います。
事前許可手続きのルールを徹底しているのだが、在宅勤務者によって深夜労働が自発的に行われた場合については、少なくとも次の①から③すべてに該当する場合は、使用者のいかなる関与もなしに行われたと認められることから、「労働基準法上の労働時間」に該当しません。
①深夜に仕事することについて、使用者から強制されたり、義務付けられたりした事実がないこと
②その労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合など、深夜に仕事せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと考えられる事情がないこと
③深夜にその労働者からメールが送信されていたり、深夜に仕事をしなければ生み出し得ないような成果物が提出されたなど、深夜に仕事を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が深夜の仕事を知り得なかったこと
3.「労働時間の状況」の把握と「実際の労働時間」の把握
実際の労働時間の把握が困難である在宅勤務者についても、定期的に、在宅勤務者が作成した業務日報やパソコンのログイン、ログアウトの状況をチェックするなどして「労働時間の状況」を適切に把握します。
みなし労働時間制を適用しているからといって、使用者は、労働者の生命、身体および健康を危険から保護すべき義務(いわゆる安全配慮義務)を免れるものではありません。
把握した「労働時間の状況」をもとに、必要に応じて、業務内容の改善を行うほか、所定労働時間や労使協定を見直すなどして、みなし労働時間を適切に設定するようにします。
4.みなし労働時間を適切に算定するための措置
事業場内勤務をしていたときはもちろん、在宅勤務中の業務であっても、労働時間が算定しがたいとはいえない業務に関しては、別途、実際の労働時間を把握しておく必要があります。
在宅勤務ガイドライン(抜粋)
1.労働基準関係法令上の注意点
労働基準法上の注意点
使用者は、在宅勤務を行わせる場合には、労働契約の締結に際し、労働者に書面を交付することにより、就業の場所として、労働者の自宅を明示しなければなりません。なお、労働契約の変更時にもできる限り書面で確認するようにしなければなりません。
労働安全衛生法上の注意点
事業者は、在宅勤務者に対し、必要な健康診断を行うとともに、在宅勤務者を雇い入れたときは、必要な安全衛生教育を行う必要があります。
労働者災害補償保険法上の注意点
在宅勤務中に業務が原因で生じた災害は、労災保険の保険給付の対象となります(自宅における私的行為が原因であるものは 業務上の災害とはなりません)
■その他在宅勤務を適切に導入・実施するに当たっての注意点
1.労使双方の共通認識
在宅勤務制度の導入に当たっては、労使で認識に食い違いのないよう、あらかじめ導入の目的、対象となる業務、労働者の範囲、在宅勤務の方法などについて、労使委員会などの場で十分に納得いくまで協議し、文書にし、保存するなどの手続きを踏むことが望まれます。
また、在宅勤務制度を導入した場合には、実際に在宅勤務をするかどうかは本人の意思によることとします。
2.業績評価などの取り扱い
在宅勤務者が業績評価などについて懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を構築することが望まれます。
3.業務の円滑な遂行
在宅勤務を円滑かつ効率的に実施するために、業務内容や業務遂行方法などを労働者に明示すること(文書にして交付するなど)が望まれます。
また、あらかじめ通常または緊急時の連絡方法について、労使間で取り決めておくことが望まれます。
4.通信費および情報通信機器等の費用負担の取り扱い
在宅勤務に必要な通信費や情報通信機器などの費用負担については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則などに定めておくことが望まれます。
5.社内教育などの取り扱い
在宅勤務者が能力開発などにおいて不安に感じることがないように、社内教育などの充実を図ることが望まれます。
6.在宅勤務を行うに当たっての労働者の自律
在宅勤務者自身も、勤務する時間帯や自らの健康に十分注意を払いつつ、作業能率を勘案して自律的に業務を遂行することが求められます。
(厚生労働省 「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のためにより引用)
以上