case069 同一労働同一賃金対応結論
同一労働同一賃金対応結論
Q:相談内容
同一労働同一賃金の検討をするに当たり、正社員とパートとの待遇差別が不合理かどうか検討しました。検討結果を確認してください。
■同一労働同一賃金の定義
業務内容
マネジメントは正社員のみが行う
責任
マネジメントは正社員のみが行う
ノルマ(人事考課)は正社員のみ
※ノルマとは、「本人希望を踏まえて目標管理制度である人事考課の対象となった場合は、
相応に責任の程度が重いと判断し得る。」の意。
配置変更範囲
正社員は配置転換あり
パートは勤務場所の変更はあるが、同意なしに業務内容が変わることはない
その他の事情
パートから正社員への登用制度あり、すでに正社員に転換した者がいる
■基本給、役割給、功績給
<現状>
正社員
基本給:月給制、役割給:あり、功績給:あり
非正規(非正社員、契約社員、嘱託社員)
基本給:時給制、役割給:なし、功績給:なし
基本給は、継続勤務が見込まれる有為な正社員人材確保・定着のため支給され、このような目的が認定されるためには、
・勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有すること
・人材育成や活用を目的とした人事異動が行われている
といったような背景事情があるとよりよいです(大阪医科薬科大学事件参照)。
業務内容など同一の部分もあるが、必ずしも待遇差が不合理である事とは断言できないと思われる。(2020.10.13メトロコマース事件最高裁判決を参考に検討)
①業務内容:マネジメント業務は正社員のみ行う
業務内容について、正社員と非正社員の差異は以下のとおりです。
□社員:定型業務、非定型業務、マネジメント
□非正社員:定型業務、非定型業務(一部の者)、マネジメント(一部の者)
②責任:マネジメント業務は正社員のみ行う
正社員は必ずノルマ(人事考課)があるが、パートにはノルマ(人事考課)が無い者がいる。
□社員:
全員が目標管理の対象となった人事考課に参加している
重要事態における業務指示の対象となる(残業指示、臨時会議招集、トラブル対応等)
人事考課における目標達成に対する責任が重い(目標管理シートの扱いが重くなる)
□非正社員:
一部が目標管理の対象となった人事考課に参加している
重要事態における業務指示の限定的対象となる
人事考課における目標達成に対する責任が限定的である
③配置変更範囲
□正社員:本人の意思を問わない配置転換あり
□パート:本人の同意を得て業務内容を変更する勤務場所の変更があり得る
④その他の事情:パートから正社員登用制度があり、実績もある(正社員転換者が数名存在)
<今後の対応>
現状のままとする。
<弊社回答>
問題ありません。
■諸手当等
・諸手当を検討した結果は下記のとおりとする。
→パート全員に是正後の対応をするのではなく、人事考課に参加する労働者
(=会社が課したノルマがある者)に適用する。
管理職手当: 正社員のみ (社員の職位により責任の程度で支給されている。)
見直し対象としない
役職手当: 正社員のみ (社員の職位により責任の程度で支給されている。)
見直し対象としない
家族手当: 最高裁判決により支給すべきと判断しました。
但し当社は正社員転換制度もある為、正社員と同等の額にしなくても良いと思料する。
現状
正社員のみとしていた 見直し対象
配偶者5千円 子、同居父母一人につき 1万円
見直し
非正規(非正社員、契約社員)についても支給するとこに改定
配偶者4千円 子、同居父母8千円
嘱託社員 支給しない
特別扶養手当: 正社員のみ 見直し対象
母または父の片方が子を不要するとき 子一人につき 5千円
⇒ 非正規(非正社員、契約社員)についても支給するとこに改定
子一人につき 4千円
嘱託社員 支給しない
調整手当: 正社員のみ 見直し対象としない
※過去の正社員賃金制度改訂において、基本給が高すぎる正社員数名に対し、
改訂が給与の減額が不利益変更とならない様にするために規定した。
現在は手当金額が少なくなっている。(社員に一律支給ではない)
通勤手当: 正社員、非正社員ともに、通勤手当として実費支給で均等に支給
見直し対象としない
解説(諸手当等)
家族手当について、長期勤務が期待されるものに対して生活保障を図り、扶養家族のある者の生活設計を容易にすることを通じて継続的な雇用を確保することが目的としています。最高裁判決により支給すべきと判断しています。
但し当社は正社員転換制度もある為、正社員と同等の額にしなくても良いと思います。
弊社コメント:(最高裁の 判例より)相応に継続勤務が見込まれている契約社員に支給しないのは不合理(日本郵便事件※)であるとされています。
※日本郵便事件(大阪)事件については、最高裁において扶養手当の相違について不合理とされています。
→契約更新の上限が定められていない場合は、支給を検討する必要があり、見直しは妥当であると思われます。
正社員との金額の差を設ける点については多少指摘の余地もあるものの、金額にそこまで開きがないため、企業への貢献度の違いからくる福利厚生面での差異ということで説明は可能かと思います。なお、嘱託社員に対する家族手当は「無し」との判断は、最高裁(長沢運輸事件)の考え方を前提にすれば妥当と思います。
■賞与 見直し対象
<現状>
正社員:100%支給
非正規(非正社員、契約社員)についても支給
ノルマ有の者 50%または70%
ノルマ無の者 寸志
嘱託社員 30%
以下の通り見直しを行います
正社員:100%支給 改定なし
非正規(非正社員、契約社員) 改定
3要素によって100%~寸志
3要素とも該当は100%、2要素該当は70%、1要素は50%、それ以外は寸志
①労働時間 週30時間以上
②業務の難易度の高さ
③人事考課の対象(ノルマがある)か否か
嘱託社員 30% 改定なし
嘱託社員:特段の責任もなく、配置転換もない
解説(賞与)
弊社コメント:(大阪医科薬科大学事件最高裁判決の判例より)契約社員・パートが長期の雇用が予定されているのであれば、賞与の支給を検討する。また、正社員に比して相当低額に抑えられていたとしても、直ちに不合理であると評価することはできない。とされています。
ノルマの有無で差異を設けている点について、見直しを行った。
ポイント(1)ノルマの有無による人事考課区分の点
ノルマの有無で差を設けている点についてですが、ノルマの有・無で明確に人事考課の区分ができるのかという点は確認が必要かと思います。
業務内容にもよりますが、ノルマの有り・無しに関わらず、業務への貢献があればそれが評価の対象となっている可能性もあり(例えばノルマの無い社員であっても相当の売り上げへの貢献があったのであれば人事評価が高くなっている等)、そうするとノルマの有無による人事考課の差異というのが曖昧になっているおそれもあります。この点が曖昧だと、それを前提とした制度の合理性にも疑義が生じてしまいます。
※ポイント(1)について。本人希望に基づき、目標管理制度に参加するか否かを決めています。目標管理制度に参加しない人には人事考課点が存在しません。
ポイント(2)ノルマの有無で支給の有無に差を設けている点、正社員との額・日数に差を設けている点
仮に(1)の問題がクリアになっているとした場合、以下のように考えられます。
賞与については、
・ノルマの有無によって支給の有無に差をつけること
・ノルマ有としても正社員と金額の差をつけること
は、企業への貢献度の違いという観点から説明がつきやすいと思います。
※ポイント(1)と同様に。本人希望に基づき、目標管理制度に参加するか否かを決めています。目標管理制度に参加しない人には人事考課点が存在しません。
■退職金 見直し対象とする
<現状>
正社員:支給
非正規:なし
嘱託社員:なし
以下の通り見直しを行います
正社員:支給
非正規(非正社員、契約社員)についても支給
以下の条件を満たす者に、正社員の25%支給
①労働時間 週30時間以上
②人事考課の対象(ノルマがある)
※60歳到達時に支給
嘱託社員:なし
※追記
無期雇用パート、無期雇用契約社員の退職金については以下の考えです。
1.60歳到達時に支給精算
2.60歳以降は積立を行わない
解説(退職金)
弊社コメント:(メトロコマース事件の最高裁の判例より)退職金は正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給するものといえる。また、職務内容等を考慮すると退職金の不支給は不合理と認められない、とされている。(「メトロコマース事件」)
→正社員と同じ仕事と範囲で、長期雇用が前提であれば、有期であっても退職金の支給が必要と思われる。また、無期雇用パート・無期雇用契約社員へは退職金の支給することの検討を要します。
→非正規社員にも退職金を支給するのは妥当と思われます。また、嘱託社員は不要と思います
ノルマの有無で差異を設けている点について、
ポイント(1)ノルマの有無による人事考課区分の点
については、賞与と同様です。
ポイント(2)ノルマの有無で支給の有無に差を設けている点、正社員との額・日数に差を設けている点については、賞与と同様です。“
■有休の夏季冬季休暇 見直し対象とする
最高裁判決により支給すべきと判断しました。
ただし、当社は正社員転換制度もある為、正社員と同等の日数にしなくても良いと思料する。
<現状>
正社員:有 夏季休暇 4日 冬季休暇 7日
非正規:なし
嘱託社員:なし
以下の通り見直しを行います
正社員:有 夏季休暇 4日 冬季休暇 7日
非正規:人事考課の対象(ノルマがある)のみ 有
夏季休暇 2日 冬季休暇 2日
嘱託社員:なし
解説(有休の夏季冬季休暇)
弊社コメント:(日本郵便・東京、大阪、佐賀各事件の最高裁の判例より)職務の内容や変更の範囲、その他の事情に相応の相違があることを考慮しても、当該労働条件の相違は不合理である。また、休暇が与えられなかったことにより、本来する必要のなかった勤務をしたことになり、財産的損害を受けたことになる。とされています。
→見直しは妥当と思われます。
ノルマの有無で差異を設けている点について、
ポイント(1)ノルマの有無による人事考課区分の点
については、賞与と同様です。
ポイント(2)ノルマの有無で支給の有無に差を設けている点、正社員との額・日数に差を設けている点
仮に(1)の問題がクリアになっているとした場合、以下のように考えられます。
有給の冬季夏季休暇については、
・ノルマの有無で付与の有無に差をつけること
・ノルマ有としても正社員と日数の差をつけること
は、微妙な判断になるかと思います。
「労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的」を前提に考えると、事案によってはノルマの無い社員にも目的が妥当すると判断される可能性が有ると思います。
また、日数についても、ノルマ有の社員と正社員で差を設けていることは、多少合理性に疑問の余地があります(ただ、現段階では「付与している」ということで他企業と比べ優位なので、そこまで懸念が顕在化することはないと思いますが)。
なお、嘱託社員(定年後再雇用者)については、フルタイムでかつ週の勤務日数が正社員と同等で働いているような場合を除いては、有給の冬季夏季休暇は「なし」でも良いと思います。
短時間あるいは週の勤務日数も少なければ、上記目的である心身の回復は十分図れているといえるからです。“
会社からのコメント:正社員と非正社員間の待遇差に「多少合理性に疑問の余地があります」との指摘について、現状ではこれ以上の待遇向上は難しいです。労働強度の差として、現在の案通りで行こうかと思います。また、定年後再雇用者については、正社員と同等の働き方をしていない場合は、有給の冬季夏季休暇はなしの方針とします。
以上