自動車事故

case058 自宅から現場まで自家用車で通勤する場合の事故について

自宅から現場まで自家用車で通勤する場合の事故について

Q:相談内容

従業員で、自宅から現場まで通勤するマイカーについて、任意保険に未加入の方がいます。

通勤時の事故については自己責任と話してあるが、高齢のかたが多く、会社としても万が一に備えておきたい。

労災の適用範囲と何かよい保険があれば紹介してほしい。

A:回答

マイカーでの事故についての責任範囲は、その状況によって異なります。

以下、事例ごとの責任範囲を示します。

1.マイカーによる仕事中の交通事故

従業員がマイカーを業務のために運転している最中に交通事故被害者になった場合は、労災保険や相手の自動車保険から補償を受けることになります。

逆に、従業員が加害者になった場合は、損害賠償責任は会社にあります。

従業員は会社の指示に基づいて仕事をして、仕事中に被害を与えたとき、会社は使用者責任(民法第715条1項本文)を負うことになります。これは従業員のマイカーであっても同じです。

2.マイカーによる通勤中の交通事故

被害者になった場合は、上記と同様です。

加害者になった場合、状況によっては、会社にも損害賠償責任が及ぶケースがあります。これまでの裁判例から次のように分類されます。

(1)業務利用を禁止している場合

従業員のマイカーの使用は通勤に限定して、会社は業務利用を禁止している場合です。この場合は、従業員が通勤中に交通事故を起こしても、会社に損害賠償責任が及ぶことはありません。

(2)従業員のマイカーを業務に使用させている場合

会社が従業員に、マイカーの業務利用を指示したり、認めたりして、会社が従業員のマイカーを積極的に業務に使用させている場合です。

この場合は、仕事中はもちろんですが、通勤中に交通事故を起こしたときも、会社は損害賠償責任を負わされるのが一般的です。通勤という行為自体は仕事ではありませんが、通勤という行為はマイカーを業務に利用するために、会社まで運搬している行為とも考えられます。

(3)マイカーの業務利用を会社が黙認している場合

(1)と(2)の中間で、従業員個人の判断でマイカーを業務にも利用していて、それを会社が黙認している場合です。以下のことを総合的に考慮して、損害賠償責任の有無が判断されます。

•日常的に業務に使用していたか? 

•会社がガソリン代や保険料、維持費等を提供していたか? 

•マイカーの業務利用を明確に禁止していたか? 

•業務との関連性はどうか?  等

◆損害賠償請求

もし、事故を起こした従業員が、自動車保険(任意保険)に加入していなかった場合、被害者は十分な補償が受けられません。そうなると、被害者は会社に損害賠償を請求してきます。その場合、会社はそれに応じる義務があります。

ただし、従業員に飲酒運転などの過失があった場合は、会社は損害賠償金を被害者に支払った後で、加害者である従業員に対して、合理的な範囲内で、その金額を請求することができます。

従業員本人に過失がない場合、損害賠償責任は会社が負うのが一般的です。従業員には請求できません。

会社に責任が及ぶ可能性がある場合は、必ず、十分な自動車保険(任意保険)に加入していることを確認する必要があります。

◆自宅から現地に直行・直帰している場合の事故が業務災害となるか通勤災害となるかの判断

一般的には、特定の現地に毎日同じルートで直行・直帰している場合は通勤災害とみなし、不特定の現地への直行・直帰の場合(日によって現地、ルートが変わるケース)は業務災害とみなされます。

前者の場合、玄関から最初に到着するまでは通勤災害となり、後者の場合は、玄関から玄関までが業務災害に対象となります。

通勤災害と業務災害との違いは、事業主に責任があるかどうかです。前者は原則として事業主に責任がありません。ただし、企業がマイカー使用を推奨していたと認められる場合(費用の実費負担、駐車場提供等の便宜供与を行う等)は、事故に対する企業責任を一定程度認めている判例もあります。

◆結論

(1)従業員が被害者になった場合を想定して、労災保険に加入することを推奨します。

(2)従業員が加害者になった場合を想定して、一定額以上の任意加入自動車保険に加入することをマイカー使用条件のひとつとすることを推奨します。また、具体的な金額を規定してください。

対人賠償保険 ・・・ ○○○○万円以上  「無制限」が望ましい

対物賠償保険 ・・・ ○○○○万円以上  「無制限」が望ましい

搭乗者傷害保険 ・・・ ○○○○万円以上

(3)また、通勤中の加害事故に対する企業責任を一定程度認めている判例もあることから、損害賠償責任保険への加入を推奨します。

(4)マイカーの業務使用規定、あるいは、マイカー通勤規定を定めておくことを推奨します。

・対象者(だれでも認めるか、限定するか)

・任意加入自動車保険に加入することを規定(上記(2)の条件)

・ドライバーの遵守事項を規定

・費用の支払いの基準

・会社の免責事項(不注意による事故、自動車の盗難、無許可で業務に使用)

(5)マイカー使用者より以下のもの提出してもらうことを推奨します。

・私有車業務上使用許可申請書、または、マイカー通勤許可申請書

・車通勤に関する誓約書

・任意保険契約書、運転免許証、車検証のコピー

◆車輌管理規程、あるいは、マイカー通勤規定

車輌管理規程等を作成して、適切に管理する必要があります。規程で定める主な内容は次のとおりです。

•許可基準を設定して、登録制にする 

•任意保険契約書等のコピーを提出させる 

•許可の取消し基準を設定する 

•更新制にする 

•業務利用を認めるかどうか明確にする 

•会社の費用負担を規定する。

•その他上記(4)の関する事項等 

許可の有効期限を、自動車保険(任意保険)の有効期限と一致させて、年1回の更新制として、毎年、任意保険契約書のコピーを提出してもらうようにして下さい。

以上

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