case023 競業避止について
Q:相談内容
当社は建設業です。退職者の競業避止について、管理職と平社員で、「離職後何年間」は、同業他社、あるいは、自ら同種の営業をすることを禁止することが可能ですか?また、可能として、何年まで可能ですか?
<現状>
(競業避止義務)・・・就業規則での記載
第39条 社員のうち役職者および管理の職務に従事していた者が退職しまたは解雇された場合は、離職後2年間は隣接する都道府県内において同業他社へ転職、もしくは同業他社の役員に就任し、または自ら同種の営業を、会社の承諾なく行ってはならない。会社の承諾なくこれらを行った場合、退職金の一部について支給しないことや返還を求めることがある。
(競業避止義務の確認)・・・退職時誓約確認書での記載
第3条 退職後2年間は、会社の承諾なく会社の業務と競合する会社へ就職(役員、社員、その他を含む)し又は競業を営むことはいたしません。
A:結論
建設業では、管理職であっても「同業他社、あるいは、自ら同種の営業をすることを禁止すること」は公序良俗(民法90条)に反して無効になる可能性が高く、上記のような誓約書をとったとしても有効となりません。
解説
「従業員の地位・業務の性質」「ノウハウ等の要保護性」「勤続年数」「競業避止義務が課される期間」「代償措置の有無」等を考慮要素として競業避止義務の公序良俗(民法90条)違反の成否を判断する裁判例が多いと言われています。例えば、高位の管理職であり、要保護性の高いノウハウに触れており、競業避止義務の対価とみるに十分な報酬が支払われていたような場合には、権限も低く、触れていた情報も特段保護に値しないものであり、基本給以外に何ら特別の手当も支払われていない場合に比較すると、公序良俗違反は認定されにくい傾向にあります。しかし、建設業においてはこのような事情は認められにくく、そもそも「同業他社、あるいは、自ら同種の営業をすることを禁止すること」は公序良俗(民法90条)に反して無効になる可能性が高いとおもいます。したがって、上記のような誓約書を取ったとしても有効となりません。さらに、誓約書を提出しない場合でも訴えることは難しいと思います。
ただし、①会社として他の追随を許さない特殊技術があり、かつ、②その機密保持について、しかるべき補償措置(※)を行っていた場合は競業忌避に対象となる可能性があります。
(※)相当額の機密保持手当を支払っていた、あるいは、退職金を何倍か支払った等の措置
なお、「会社に対する誹謗中傷を行い、大量の社員の引き抜きを行うこと」あるいは、「大量の顧客の引き抜きを行うこと」により会社に損害をあたえたときは損害賠償を請求することは有効になる余地があります。
以上
退職時誓約確認書
株式会社 ○○○
代表取締役 ○○ ○○殿
私は、今般貴社を退職するにつきまして、下記のとおり確認し、誓約いたします。
(秘密保持の確認)
第1条 私は貴社に在職中に扱った書類、伝票、記録、その他の情報媒体物、その他これに類する資料は、本日までにすべて貴社に返却いたしました。
2 私は、私が貴社に在職中に業務遂行のために、私の所有するパソコン、携帯電話、その他これに類する通信機器等に保存した貴社及び顧客取引先に関する一切の企業情報及び個人情報(顧客等の個人情報のみならず貴社の役員及び社員に関する個人情報を含む)(以下「秘密情報」という)は、本日までにすべて削除し、これらの複製も一切保有しておりません。
(退職後の秘密保持の誓約)
第2条 貴社在職中に知り得た秘密情報は、退職後といえども、他に漏らしたり不正に使用したりしないことを約束いたします。
(競業避止義務の確認)
第3条 退職後2年間は、会社の承諾なく会社の業務と競合する会社へ就職(役員、社員、その他を含む)し又は競業を営むことはいたしません。
(損害賠償)
第4条 万一、前各条項に違反して、秘密情報を開示、漏洩もしくは使用することによって、貴社に損害を与えた場合には、これを賠償することを約束致します。
年 月 日
住所
氏名 ○印
以上