解雇通知書

case021 デザイナーを配置転換できるか

デザイナーを配置転換できるか

Q:相談内容

デザイナーとして採用した社員を他の業務に配置転換できるか?

背景

3年前にデザイナーとして採用した社員について、技術的には優れている。しかし、会社の事情から、スピード重視が要求されるも、納期に間に合わず、顧客に迷惑がかかったこと、あるいは、やむなく外注で対応することがあった。本人とは、幾度か話し合いをしたが、現状は改善されていない。

再度話し合いをするが、改善が見られない場合は、デザイン業務は外注化し、デザイナーとして採用した社員を配置転換(デザイナー以外の業務)にせざるを得ないと考えている。このケースで配置転換することは可能ですか?

A:回答 <結論>

今回の案件については、「募集時にデザイナー業務に限定」とし、雇用契約書で「デザイナー業務」としているのであれば、「職種限定」と認められる可能性は高いと思われます。その職種の仕事が外注化によって無くなるのであれば、「解雇」も不可能ではないですが、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とされています。特にこの事例の解雇は整理解雇の4要素(※)から判断されるため、解雇の中でも特に有効性ハードルが高い類型になります。

※整理解雇の4要素の基準

(1)整理解雇の必要性があること

(2)整理解雇回避のための努力を尽くしたこと

(3)解雇の対象者選定について、客観的・合理的な基準を作成し、適正にこれを運用したこと

(4)使用者が整理解雇を行うにあたって、当該労働者、労働組合と誠実かつ十分に協議しなければならないこと

したがって、安易な解雇は避けるべきだと思います。本人と話し合い、上記の理由で配置転換をしたい旨を伝え、本人が配置転換に応じるなら雇用を継続し、配置転換に応じられないのであれば、就職先を斡旋するとかデザインを請け負っている会社に紹介する等の対応を条件とする退職勧奨が望ましいです。なお、限定された職種を超えて合意により配置転換するのであれば、実務対応としては職種変更の合意書を交わしておくことが望まれます。

<解説>

配転とは

 配転とは、職種・職務の変更配置の変更であって、職務内容又は勤務場所が相当の長期間にわたって変更を伴うものをいいます。
(1)「配置転換」:同一勤務地内の勤務箇所(所属部署)を変更するもの

(2)「転勤」:勤務地を変更するもの

配転命令権の根拠

配転は労働契約により使用者に委ねられた権限のひとつで、一定の場合に、使用者は従業員の個別の同意なく配置転換命令権を行使できるとしています。

長期的な雇用を予定した正規雇用労働者について、職務内容や勤務地を限定せずに採用され、企業組織内での労働者の職業能力・地位の向上や労働力の補充・調整のために系統的で広範囲な配転が広く行われています。

就業規則に「業務の都合により出張、配置転換、転勤を命ずることがある」などと記載されているのが一般的です。

しかし、配転命令権も、労働者の利益を考慮して行使されなければならず、業務上の必要性と労働者の職業上・生活上の不利益を配慮した合理的なものでなければなりません。なにがなんでも認められるというわけではありません。

【参考事例】東亜ペイント事件 (S61.07.14最二小判)

広島営業所、および、名古屋営業所への転勤の内示を家庭の事情を理由に拒否した営業担当者Xを就業規則所定の懲戒事由に懲戒解雇し、Xが転勤命令と懲戒解雇の無効を主張して提訴した事件です。最高裁は、転勤命令は権利の濫用であり、転勤命令と懲戒解雇は無効であるとした大阪地裁・高裁の判決を破棄し、差し戻しました。

判決理由としては、権利行使が濫用となる3類型(①業務上の必要性が存しない場合、②他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、③通常感受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき)に該当するものではなく、権利を濫用したとはいえないということです。

労働契約による配転命令の制限

社員の採用に際して、勤務地限定特約がある場合や職種を限定する合意がある場合は、原則として従業員の同意なしに勤務地や職種を変更することはできません。配置転換に対して「募集時に職種が限定されている」と主張され、配置転換権限がなく無効と判断される可能性があります。

例えば、「プログラマー募集」、「デザイナー募集」、「ドライバー募集」等と募集要項に記載して採用した場合。

労働契約において,職種を限定する合意がある場合,当該労働者の合意がない限り,当該労働者を他職種へ配転することはできません。

 以下のような場合には職種限定の合意があると認められやすいと考えます。

(1)職種・部門限定社員や契約社員のように,定年までの長期雇用を予定せずに職種や所属部門を限定して雇用されている労働者

(2)特殊な技術,技能,資格が必要な職種の労働者

アナウンサーの他職種への配転、事務職の警備職への配転などが裁判上、無効とされています。その他、医師、看護婦などについても同様です。

以上

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